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静岡地方裁判所 昭和34年(行モ)2号 決定

申請人 金義忠

被申請人 静岡刑務所長

主文

本件申請を却下する。

理由

本件申請理由の要旨は「申請人は昭和三十三年一月二十七日から三年三月の懲役刑(未決通算三百九十一日、満期日昭和三十五年三月三十一日)を服役しており、現在静岡刑務所に在監中のところ、被申請人は昭和三十四年八月十日申請人に対し、申請人が同月六日受刑者である申請外飯野一郎及び斎藤和夫とけんかしたとして、叱責の懲罰処分及び処遇を三級から四級に低下する処分をしたが、申請人はただ一方的にののしられ、暴行を受けただけで、けんかの相手になつたことはないのであるから、右各処分は達法であり、取消を免れない。

しかるに、静岡刑務所においては三級以上の者が仮釈放申請の対象とされ、四級の者はほんどその対象とされる見込はないから、申請人はすでにその刑期の三分の一以上を服役しており、仮釈放申請の対象となる資格があるのに、前記各処分のためその対象となり得ないこととなり、本案訴訟の結果を待つていては仮に勝訴してもその時はすでに刑期が満了し、申請人はついに仮釈放の恩典に浴する機会を失い、償うことのできない損害を被ることになる。

よつて、前記各処分取消の本案訴訟を提起すると共に、その執行の停止を求めるため、本件申請に及ぶ」というにある。

よつて、審理すると、行政処分の執行停止により停止しうるのはその処分の具体的な執行ないし法律上の効力であつて、執行停止によりその事実上の効力の停止、すなわち、事実上その処分がなされなかつたと同様の状態にすることまでは期待し得ないものというべく、従つて、その処分の結果、法律上当然にある効力が発生し、その効力を停止する必要があれば、その処分の執行停止を求めうるけれども、処分の結果、ある効力が法律上発生するのでなく、事実上ある結果が出てくるだけでは、その処分の執行を停止しても、必ずしもその事実上の結果の発生を阻止し得ないのであるから、その処分の執行を停止する必要はないものといわなくてはならない。

しかるに、申請人主張の各処分によつて当然申請人が仮釈放申請の対象となりうる地位を失うものと解すべき法令上の根拠なく、他の本件各処分の執行を停止しなければ、償うことのできない損害が発生することについては主張も疎明もない。

よつて本件申請は理由がないから、これを却下し、主文の通り決定する。

(裁判官 大島斐雄 田嶋重徳 藤井登葵夫)

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